再生医療×リハビリテーション 脊髄損傷ver.
「脊髄損傷と診断されたけど、これからどのような治療やリハビリするの?」
「脊髄損傷に再生医療は効果があるの?」
「再生医療を受けた後のリハビリは必要なの?」
脊髄損傷は、運動機能だけではなく、
感覚や排尿・排便、血圧、体温調節など、生活に関わる様々な機能に影響を及ぼします。
一方で、脊髄損傷の程度や損傷部位は一人一人異なるため、
同じ「脊髄損傷」であっても、症状や回復の可能性、必要なリハビリテーションは大きく異なります。
近年では、損傷した神経組織の修復や機能回復を目指す「再生医療」の研究も進んでいます。
本記事では
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について詳しくお話します。
脊髄損傷とは
脊髄は、脳と身体を繋ぐ重要な神経の束です。
脳から「手を動かす」「足を動かす」といった運動の指令を身体へ伝えるだけでなく、
身体から脳へ送られる痛み・温度・触覚などの感覚情報を伝える役割も担っています。
また、脊髄は運動や感覚だけではなく、排尿・排便、発汗、血圧調節などの自律神経機能にも関係しています。
そのため、脊髄が損傷すると、損傷部位や損傷の程度に応じて、
手足の麻痺、感覚障害、排尿・排便障害、自律神経障害など、様々な症状が生じます。
脊髄損傷の原因には、交通事故や転倒・転落、スポーツ事故などの外傷性のものだけでなく、
病気や加齢による影響で脊髄が圧迫される非外傷性のものもあります。
日本では年間約5000人の新たな脊髄損傷が発生しているとされ、
損傷部位は頚髄が約60%、胸腰髄が約40%とされています。
割合としては、交通事故、転落などが多く、高齢化に伴い転倒による脊髄損傷も重要になっています。
完全損傷と不完全損傷
脊髄損傷は大きく
- 完全損傷
- 不完全損傷
に分けられます。
完全損傷では、損傷部位より下の運動・感覚機能が失われます。
一方、不完全損傷では脊髄の一部の機能が残存しており、
損傷部位より下に何かしらの運動機能や感覚機能が残ります。
不完全損傷には
中心性脊髄損傷、Brown-sequard症候群、前脊髄症候群、後脊髄症候群などがあります。
受傷時の麻痺は流動的で特に不全麻痺の患者様においては時間ごとに症状が変化することもあります。
したがって、神経学的所見は、経過を追いながら頻回に観察する必要があります。
ここで重要なのは、「脊髄損傷=全く動かなくなる」というわけではないということです。
損傷部位や損傷の程度によって、残存する機能は大きく異なります。
脊髄損傷ではどのような症状が起こるの?

脊髄損傷の症状は、損傷した高さや範囲、完全損傷か不完全損傷かによって異なります。
代表的な症状は以下の通りです。
運動麻痺
脳から筋肉へ送られる運動指令がうまく伝わらなくなることで手足が動かしにくくなります。
感覚障害
損傷部位より下部で
- 触った感覚がわかりにくい
- 痛みや温度を感じにくい
- 痺れがある
- 神経障害性疼痛がある
※神経障害性疼痛とは:痛みを伝える神経そのものが傷つき、
異常な興奮を発し続けることで生じる慢性的な痛み厚生労働省 慢性疼痛治療ガイドライン(PDF)
などの症状がみられることがあります。
自律神経障害
脊髄損傷は自律神経障害にも関係しているため
- 排尿障害
- 排便障害
- 発汗障害
- 血圧調節障害
- 体温調節障害
などが生じることがあります。
特に高位脊髄損傷では、循環・呼吸機能への影響にも注意が必要です。
また、胸髄第6損傷では、
膀胱充満などをきっかけに血圧が急激に上昇する自律神経過反射が起こることがあります。
現時点で脊髄損傷による自律神経障害は、
不明な点も多いため、医師への相談を必ず行いましょう。
呼吸機能への影響
頚髄損傷などでは呼吸筋の機能が低下し、
呼吸管理が必要となる場合があります。
急性期には肺炎などの呼吸器合併症にも注意が必要です。
日本リハビリテーション医学会でも、
脊髄損傷急性期には呼吸状態を含めた全身管理と、呼吸リハビリテーションが重要とされています。
二次的な合併症
身体を動かしにくくなることで、
- 褥瘡
- 深部静脈血栓症
- 肺塞栓
- 関節拘縮
- 筋力低下
- 骨粗鬆症
などの二次的な問題に繋がることがあります。
そのため、脊髄損傷のリハビリでは「麻痺を改善させる」ことだけが目的ではありません。
合併症を予防しながら、残された機能を最大限に活かして生活に繋げることが重要です。

脊髄損傷に対する治療とリハビリの流れ
脊髄損傷の治療は、大きく急性期→回復期→生活期という流れで考えることができます。
ただし、実際の治療内容や期間は、損傷の程度や全身状態、手術の有無などによって異なります。
急性期の脊髄損傷リハビリテーション
受傷直後は、呼吸や血圧などの全身状態を安定させることが優先されます。
必要に応じて、
- 脊椎の固定
- 脊髄への圧迫を解除する手術
- 脊椎を安定させる手術
- 呼吸管理
- 循環管理
などが行われます。
脊髄損傷では、受傷直後の損傷だけでなく、
その後の腫脹や循環障害などによって二次的な損傷が進行する可能性があります。
そのため、これ以上損傷を広げないための全身管理が非常に重要です。
現在のところ脊髄損傷を完治させる方法は確立されていませんが、
この時期に適切な治療を行って二次的損傷を防ぐことが、
今後のリハビリテーションをスムーズに進めるためのカギとなります。
全身状態が安定すれば、早期からリハビリテーションが開始されます。
例えば、
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などを行います。
急性期では、今後どのような障害が残るかを予測し、
それに向けた対応を早期から行うことが重要です。
また、その後の回復を妨げない身体環境を作ることも、
脊髄損傷リハビリテーションの重要な役割です。
この時期のリハビリテーションというものは、
皆様が想像しているリハビリテーションとは少し違うことも多いと思います。
回復期の脊髄損傷リハビリテーション
全身状態が安定すると、より積極的なリハビリテーションへ移行します。
残存機能の維持・向上を図りながら、
基本的な動作や日常生活動作のリハビリテーションを実施し、
できるだけ自立した生活ができるように励みます。
回復期の主な目的は、
残った機能を最大限に活かし、その人らしい生活を取り戻すことです。
訓練内容としては、
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などを行います。
脊髄損傷のリハビリでは、単純に“歩けるようにする”だけを目標にするのではなく、
その人にとって必要な生活動作を獲得することが重要です。
例えば、歩行の可能性が低い段階で「歩行訓練」のみに時間を費やしてしまうと、
車椅子操作や移乗、セルフケアなど、実生活に必要な能力の獲得が遅れてしまう可能性があります。
実際、過度な歩行への期待から実生活に必要なADL訓練を拒んだ場合には、
QOL(生活の質)が低下する傾向があると指摘されています。
そのため、歩行能力の向上を目指しつつも、
実生活に必要なADLの獲得を並行して進めることが大切です。
生活期の脊髄損傷リハビリテーション
脊髄損傷者にとって、退院後の生活を安定させ、
自分らしい生活を継続していくことは非常に重要です。
生活期のリハビリテーションでは、
入院中に獲得した身体機能や動作能力を実際の生活の中で活かしながら、
より安全で自立した生活を送れるよう支援します。
脊髄損傷患者様にとって、退院後の自立した生活や社会復帰はより重要なものとなります。
入院期間の短縮化に加え、退院後に医療保険で受けられる外来リハビリ期間に上限もあります。
生活期の主な目的は
・生活機能の維持向上
・社会参加の促進
・二次的障害の予防
・QOL(生活の質)の向上および介護負担の軽減です。
訓練内容としては、
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などを行います。
生活期では、単に「できる動作を増やす」だけではなく、
実際の生活の中で安全に継続できる方法を考えることが大切です。
また、脊髄損傷では長期にわたって身体機能や生活環境の変化に対応していく必要があります。
そのため、本人が自分の身体の状態を理解し、体調管理や自主トレーニング、
褥瘡予防などを自ら行えるようになることも重要です。
さらに、復職や就学、趣味、旅行、スポーツなど、
患者様一人ひとりが「やりたいこと」「大切にしていること」を実現できるように支援することも、
生活期リハビリテーションの大きな役割です。
リハビリテーション重要性
脊髄損傷のリハビリテーションでは、
損傷の程度や残存する機能、受傷からの時期、生活環境などを考慮し、
一人一人に合わせたリハビリテーションを行うことが重要です。
脊髄損傷では、同じ損傷レベルであったも、
残存する運動・感覚機能や筋力、合併症、生活環境などによって、
必要となるリハビリテーションは異なります。
そのため、「脊髄損傷だからこの訓練を行う」という一律の方法ではなく、
現在の身体機能や生活上の課題を評価し、その人に必要な訓練を選択することが大切です。
また、リハビリテーションは一度にすべてを獲得するものではなく、
回復の段階に応じて目標や内容を変化させながら、継続していくことが重要です。
インターネットや動画サイトでは、様々なリハビリテーション方法が紹介されています。
しかし、ある人には効果が期待できた方法が、すべての脊髄損傷患者様に適しているとは限りません。
誤った方法や過度な訓練を続けることで、関節や筋肉への負担、疼痛、二次的な障害に繋がる可能性もあります。
そのため自己判断だけで訓練を行うのではなく、
専門職に相談し、身体機能や生活状況に合わせた適切な方法を選択することが大切です。
脊髄損傷の回復を予測するには?
脊髄損傷の予後を考えるうえで重要なのが、損傷の程度と残存する神経機能です。
代表的な評価として、ASIA Impairment ScaleやASIA motor scoreなどがあります。
※簡単に言うと、
「麻痺がどのくらい重いのか(A~Eの5段階)」や「どの筋肉がどのくらい動かせるのか」
を世界共通のルールで点数化し、現在の状態を正確に把握するための検査です。
加えて、年齢や動作能力等も歩行獲得の予後に関わる因子として検討されています。
特に受傷早期の神経学的所見は、歩行獲得などの予後を考える上で重要な要素とされています。
不完全脊髄損傷では、受傷後の時間経過とともに神経学的所見が変化する場合があります。
そのため、一度の評価だけで「もう回復しない」と判断するのではなく、
経時的に評価することが重要です。
実際、不完全頚髄損傷を対象とした研究では、
受傷後1~4週にかけて歩行獲得率が変化しており、早期からの経過観察の重要性が示されています。
また、海外の研究でもASIA C・Dなど不完全損傷ではリハビリテーション
によって歩行能力が向上する例が多く報告されています。
※ASIA分類C/Dとは、簡単に言うと、
Cは筋肉を動かすことはできるが、重力に逆らって自力で手足を持ち上げることはできない
Dは重力に逆らって自力で手足を持ち上げられる筋力がある状態。
ただし、AISだけでは将来の歩行や生活を完全に予測できるわけではありません。
年齢、損傷部位、筋力、感覚機能、体幹機能、疼痛、痙縮、全身状態、本人の生活環境など、
様々な要因をを総合的に考える必要があります。
再生医療とは
ここまで説明してきた脊髄損傷に対して、現在研究が進められている治療のひとつが再生医療です。
再生医療とは、細胞や組織などを利用して、失われた機能の回復や組織の修復を目指す医療です。
脊髄損傷では、
- 幹細胞
- 神経幹細胞・神経前駆細胞
- 間葉系幹細胞(MSC)
など、様々な細胞を利用した研究が行われています。
再生医療によって期待されているのは、単純に“損傷した脊髄を元通りにする”というものではありません。
例えば、
- 神経細胞を保護する
- 神経回路の修復を助ける
- 炎症環境を調節する
- 神経細胞や軸索の再生を促す
- 神経ネットワークの機能回復を支援する
といった複数の作用が研究されています。
脊髄損傷×再生医療の現在
脊髄損傷の対する再生医療は、現在も研究が進んでいる分野です。
2025年の臨床研究レビューでは、
神経幹細胞・神経前駆細胞、MSC、嗅球鞘細胞、Schwann細胞など、
様々な細胞を用いた臨床研究が報告されています。
特に、亜急性期の脊髄損傷に対するMSCを用いた研究では有望な結果が報告されている
一方、現時点で「脊髄損傷に対する再生医療はこれで確立した」といえる段階ではありません。
再生医療は「これからの可能性」が期待されている治療分野であり、
現在の標準的なリハビリテーションに置き換わるものではありません。
再生医療とリハビリテーションはなぜ一緒に考えるのか
ここが、脊髄損傷における“再生医療×リハビリテーション”を考える上で非常に重要なポイントです。
仮に神経細胞や神経回路の修復が進んだとしても、
「神経が繋がること」と「実際に身体を上手に動かせること」は同じではありません。
例えば、足を動かすには、
脳→脊髄→末梢神経→筋肉→関節運動→実際の動作という複数の要素が関係します。
そのため、神経系の機能回復を生活上の動作に繋げるには、
繰り返し身体を動かし、適切な感覚入力や運動課題を与えることが重要になります。
これが“再生医療×リハビリテーション”が注目される理由の一つです。
再生医療後のリハビリテーションで重要なこと
再生医療後のリハビリテーションについては、
投与する細胞の種類、投与方法、受傷からの期間、患者様の状態によって異なります。
そのため、全ての患者様に共通する“この運動をすれば効果が出る”
という確率したプロトコルがあるわけではありません。
その中でいかに機能回復を目指してリハビリテーションを行うかが必要になってきます。
慢性期の脊髄損傷でリハビリテーションでロボットやVRを組み合わせる
複合的なアプローチも研究されています。
そして、幹細胞を投与したからといっていきなり高負荷の運動を行えばよいわけではありません。
まずは、
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というように、患者様ごとにリハビリテーションを組み立てていくことが重要です。
“歩けるようになる”だけがゴールではない
脊髄損傷のリハビリテーションでは、
“歩けるようになること”が大きな目標として注目されます。
歩けないと意味がない。一生車椅子生活と言われました。
というご意見をよく耳にします。
しかし、
重要なことは【その人がどのような生活を送りたいのか】という視点です。
「自宅で一人でベッドから車椅子へ移りたい」
「トレイ動作をできるようになりたい」
「仕事復帰したい」
「家族と外出したい」
「買い物に行きたい」
という目標があるかもしれません。
歩行が獲得できる可能性がある場合には歩行練習も行います。
しかし、車椅子での生活が現実的な目標になる場合には、
車椅子操作や移乗、セルフケアなどしっかり練習しないことには次のステップには進めません。
歩けるだけでは生活はできません。
まずは、身の回りのことから進めていきます。
歩行練習は体幹機能向上や座位機能向上、その他多方面に効果を発揮することもあるため全くしないわけではありません。
まずは歩けるかどうかではなく、
その人らしい生活をできるためにはどうするかを考えることが重要になっていきます。
再生医療を受ければ必ず歩けるようになる?
これは非常に重要なポイントです。
現時点では、再生医療を受ければ脊髄損傷が必ず治る、
必ず歩けるようになると断言することはできません。
再生医療は現在も研究が進んでいる分野であり、
細胞の種類、投与方法、受傷からの期間、損傷の程度などによって結果が異なります。
さらに、日本脊髄障害医学会も、脊髄損傷に対する再生医療の自由診療について、
広告の表現や厚生労働省が効果を保証しているかのような誤解を招く説明には注意するよう呼びかけています。
再生医療を検討する際には、
- どのような細胞を使用するのか
- どのような研究結果があるのか
- 期待できる効果と限界
- 副作用やリスク
- リハビリテーションの実施の有無
などを医師や病院に確認することが大切です。
再生医療×リハビリテーション
脊髄損傷に対する再生医療は、まだ発展途上の分野です。
しかし、細胞治療だけではなく
- 再生医療
- リハビリテーション
- 電気刺激療法
- ロボットリハビリテーション
- 装具療法
- 運動療法
などを組み合わせることで、
神経機能の回復をより現実になるよう研究が進まれています。
特に、“再生医療によって神経系の回復を促す”ことと、
“リハビリテーションによって回復した機能を実際の動作に繋げる”
ことを組み合わせる考え方は、今後さらに重要になる可能性があります。
2026年には日本脊髄障害医学会から、
脊髄損傷の急性期から亜急性期における
リハビリテーション治療を考えるためのプロトコールも公開されています。
これは一律の治療方法を示す者ではなく、症状の多様性を踏まえて治療を組み立てる際の考え方を示すものとされています。
まとめ
脊髄損傷は、運動機能だけではなく、感覚、自律神経、呼吸、排尿・排便など、身体の様々な機能に影響する疾患です。
そのため、治療では必ずまず全身状態から安定させ、二次的な損傷や合併症を予防しながら、
できるだけ早期からリハビリテーションを開始します。
現在、脊髄損傷に対する新しい治療法として研究が進められているのが再生医療です。
再生医療によって損傷した神経組織の修復や機能回復を促す可能性が研究される
一方、現時点では再生医療だけでは脊髄損傷を完全に治療できるとは言えません。
だからこと重要なことは、
“再生医療を受けること”だけではなく、
“回復した可能性のある機能を、どのように身体活動や生活に繋げていくか”
という視点です。
再生医療とリハビリテーションは、どちらか一方ではなく、
患者様の状態に合わせ組み合わせることが重要です。