「もう一度ホノルルマラソンに出場したい」夢を叶えた脳卒中の女性とクリニックの二人三脚の物語
- ・疾患名:脳卒中(脳血管障害)
- ・イニシャル:H.M
- ・性別・年齢:24歳 女性
- ・症状:脳卒中(脳出血)の後遺症、左手足の運動麻痺、感覚障害
- ・脂肪由来幹細胞治療:6回
- ・リハビリ:週5回×3ヶ月、週2回×15カ月 現在も継続中
目次
来院までの経緯
H.M様が「脳出血」を発症されたのは、当院へ来院される約8年前、高校生のときでした。
普段通りに過ごしていたある日、突然強い頭痛が現れ、その約10分後には意識を失っていました。近くにいたお姉様とご友人がその異変に気づき、すぐに救急車を要請。病院へ緊急搬送されました。
脳動静脈奇形の破裂による脳出血と診断
搬送先の病院で画像検査を受けた結果、「脳動静脈奇形」が認められました。
脳動静脈奇形とは、脳内の動脈と静脈が正常とは異なる形で直接つながる血管の異常です。H.M様の場合は、右脳にあった脳動静脈奇形が破裂し、「脳出血」を起こしていることが分かりました。
命に関わる状態であったため、直ちに緊急手術が行われました。手術では、脳の圧迫を軽減するため、頭蓋骨の一部を一時的に外すといった大がかりな処置が必要となりました。
手術後、意識は徐々に回復しましたが、脳出血の後遺症により左手足が動かないという状態となってしまうのです。当初は自力で起き上がることも、座ったままの姿勢を保つことも難しかったといいます。
残存した脳動静脈奇形に対する再手術
危機は脱したかに思われたのですが、数週間後に再検査をしたところ、なんと脳動静脈奇形の一部が残っていることが判明。危険が残っていました。そのため、残存部分への再手術を余儀なくされ、一時的に外していた頭蓋骨を元に戻す手術が行われました。
長時間に及ぶ手術は無事に終了し、約1か月後の検査では、もはや脳動静脈奇形は認められないことを確認できました。そして、今後のために、身体機能の回復を目指して、リハビリ専門の医療機関へ転院することになるのです。
しかし、これからというとき、新たな脅威が襲い掛かります。
手術部位が化膿、感染が生じていること(感染症の発症)が分かったのです。なんと再度、頭蓋骨を取り外す手術を受けなければなりませんでした。結果、感染が落ち着いた後には人工骨で頭蓋骨を形成する手術も必要となりました。
このような厳しい状況下、H.M様は、合計4回にわたる大手術を乗り越えられたのです。
左半身麻痺の状態から杖歩行が可能になるまで回復
手術後は、脳血管障害による後遺症、左半身麻痺に対して、長期間にわたりリハビリに取り組むことになります。
当初は一人で起き上がることも難しい状態ながら、継続的なリハビリとご本人のたゆまぬ努力によって装具と杖を使用すれば一人で歩けるまでに回復。なんとか日常生活を送れる状態にまで回復、無事に退院されたのです。
退院後に感じたリハビリの限界と将来への不安
退院できたことに喜びを感じる一方で、H.M様には新たな悩みがありました。
退院後に保険診療で受けられるリハビリは、入院中と比べて※実施時間や回数に制限があります。外来リハビリを受けた直後は身体が動かしやすくなっても、翌日には再び動きにくさを感じることが多かったそうです。
思うような変化を感じられないなかで、次第に将来への不安が大きくなっていきました。
- 「これ以上の回復は難しいのだろうか」
- 「これからも、ずっとこの身体の状態で生活していくのだろうか」
そのような思いを抱えながらも、H.M様には諦められない目標、「夢」がありました。それは、再びホノルルマラソンに出場することでした。
※公的医療保険で受けられる通院リハビリは発症後180日を過ぎると、1ヵ月に13単位(1単位:20分)と制限されています。
脳卒中(脳出血)の後遺症に対する再生医療を知る
「もう一度走れるようになりたい!」そのために、ほかに検討できる治療法はないだろうか…
H.M様は、脳出血や脳血管障害の「脳卒中」の後遺症に対する治療法について、インターネットで調べ始めました。
情報を探すなかで、脳卒中の後遺症に対する新たな治療の選択肢として「再生医療」が行われていることを知りました。身体機能の向上を目指す新たな可能性に期待を持ち、詳しい説明を聞くため、当院のカウンセリングへご来院いただくことになりました。

医師からのコメント
H.M様の大きな目標は、「もう一度ホノルルマラソンに出場すること」でした。そこで当院では、ホノルルマラソンへの出場を治療とリハビリの最終目標に設定しました。
初診時には、装具と杖を使用すれば一人で歩くことができていました。
一方で、走ろうとすると麻痺側の足を十分に前へ出せず、つま先が地面に引っかかって転倒する危険性がありました。そのため、走行時には介助が必要で、ご本人も「どのように身体を動かせば走れるのか、イメージが湧かない」と感じていたそうです。
H.M様が走る際に抱えていた主な課題は、次の3点でした。
- 歩行時にも、麻痺側の足を真っすぐ前へ出しにくい
- 走ろうとすると麻痺側の足が十分に上がらず、つま先が地面に引っかかる
- 走る動作をイメージしにくく、スピードを上げられない
ホノルルマラソンへの出場を目指すためには、まず安全に走れる身体機能を身につける必要があります。
そこで、脳血管障害の後遺症に対する治療選択肢の一つとして、自己脂肪由来幹細胞を用いた再生医療をご提案しました。
さらに、幹細胞治療だけに頼るのではなく、歩行や走行に必要な筋力、バランス能力、足を前へ運ぶ動作を高めるためのリハビリを併用し、段階的に走る動作の獲得を目指す方針としました。

リハビリの内容
H.M様が再び走れるようになるために、まず現在の運動機能や歩行・走行時の動作を詳しく評価しました。どの機能を重点的に高める必要があるかを確認し、次の3つをリハビリの目標として設定しました。
- 麻痺していない側の足で、安定して身体を支えられるようにする
- 麻痺側の足を素早く前へ出せるようにする
- 軽いジャンプ動作を身につけ、走る際に必要な「弾む感覚」を獲得する
麻痺していない側の足で身体を支える練習
走る動作では、片足で身体を支える時間が生じます。そのため、麻痺していない側の足で安定して立ち、バランスを保つための訓練を行いました。
身体の傾きやふらつきを抑えながら、次の一歩へつなげられるよう、片足での支持力とバランス能力の向上を目指しました。
麻痺側の足を素早く前へ出す練習
H.M様は、走ろうとすると麻痺側の足が十分に上がらず、つま先が地面に引っかかりやすい状態でした。
そこで、麻痺側の足を素早く前へ運ぶために、必要な筋肉を瞬間的に動かす練習を実施しました。また、身体に余分な力が入ると動作が遅くなるため、力みを抑えながら効率よく足を動かす練習も行っています。
走るための「弾む感覚」を身につける練習
走行では、左右の足で地面を蹴り、着地を繰り返す動作が必要です。そのため、軽いジャンプから始め、地面を押して身体を浮かせる感覚や、着地時に体重を受け止める方法を練習しました。
「ポン、ポン」と一定のリズムで弾む感覚を身につけながら、安全に走行動作へ移行できるよう、段階的に訓練を進めました。
これらのリハビリを、開始から3か月間は週5回、その後は週2回の頻度で15か月間継続しました。

まとめ
H.M様は、6回の幹細胞投与を終え、約1年半にわたってリハビリを継続されました。
そして、当初から目標としていたホノルルマラソン10kmの部への出場が決定。付き添いの方とともに参加し、杖と装具を使用しながら、介助を受けることなくご自身の力で走り切り、2時間11分で完走されました。
リハビリ担当者からは、走行時の安全確保と関節への負担を軽減するため、今回は杖と装具を使用した状態での出場を提案しました。完走後、H.M様からスタッフへ直接、無事にゴールできたとの報告をいただきました。
念願だったホノルルマラソン完走を達成された一方で、ご本人は現在のタイムや走り方にまだ満足しておらず、さらなる身体機能の向上を目指して、今後もリハビリを継続される予定です。
6回の幹細胞投与は終了しましたが、治療とリハビリを続けるなかで身体の変化を感じていることから、今後の状態や目標に応じて、追加投与についても検討されています。
これからもH.M様が新たな目標へ進んでいけるよう、当院スタッフ一同、長期的な視点で支援してまいります。