脳幹出血の後遺症から教壇復帰へ|再生医療とリハビリに取り組む50歳教員の症例
- 疾患名:脳卒中(脳出血)脳血管疾患
- イニシャル:T・S様
- 年齢・性別:50歳 男性
- 症状:脳血管障害の後遺症
- 左手足の運動麻痺、感覚障害、言語機能障害、複視、嚥下障害
目次
来院までの経緯
T・S様が脳出血を発症されたのは、当院へ来院される約3年前のことでした。
当時は、義父様が亡くなられ、葬儀の準備に追われていた時期だったそうです。さらに、中学1年生の娘様も数日前から発熱して自宅で休んでおり、T・S様は葬儀場とご自宅を何度も行き来する生活が続いていました。
葬儀を終え、ようやく少し落ち着けると思っていたある日、娘様と2人でご自宅で過ごされていた際に、突然、激しい頭痛とめまいに襲われたのです。
そのままリビングの床に倒れ込み、そばで様子を見られていた娘様がすぐに救急車を要請。病院へ緊急搬送されました。
脳幹橋出血と診断され、自発呼吸も難しい状態に
搬送先で検査を受けた結果、脳幹に出血が認められ、「脳幹橋出血」と診断されました。
脳幹は、呼吸や意識、運動、感覚など、生命維持に関わる重要な機能を担う部位です。幸い、T・S様は、娘様の迅速な対応によって一命を取り留めましたが、治療後もしばらくは自発呼吸が難しいという状態が続き、ご家族は大変な想いで心配されたそうです。
その後、数日かけて意識は徐々に回復しました。
「家族のために、もう一度身体を動かしたい」
意識が戻ったT・S様は、「一日でも早く家族のもとへ戻りたい」「できる限り元の身体に近づきたい」という強い思いを持ち、回復期リハビリテーション病棟へ転院されることになります。
脳幹橋出血の後遺症として、「左手足の運動麻痺」や「感覚障害」、「言語機能障害」、「複視」、「嚥下障害」など多くの症状が残っていましたが、回復期病棟では、座る、食べる、身体を支えるといった日常生活に必要な動作を中心に、懸命にリハビリに取り組まれました。
その結果、長時間いすに座っていられるようにもなり、食べ物をこぼすことはあっても、自分でスプーンを持って食事ができる状態まで回復。その後、退院し、ご自宅へ戻ることができました。
退院後もリハビリを続けるものの、自力で立ち上がれない
退院後は、担当のケアマネジャーから紹介された自費のリハビリ施設へ通い、教員として一日でも早く復職できるよう、訓練を続けていました。
しかし、足の感覚障害が強く残っていたため、自分の足がどこにあり、どの程度体重をかけているのかを感じ取りにくい状態でした。そのため、なかなか一人で立ち上がることができませんでした。
そんな時でも、T・S様は、次のように考えていたそうです。
「一人でトイレへ行き、手すりを使ってでも自分の力で立ち上がれるようになれば、仕事に戻れるかもしれない」
教壇への復帰を目指し、再生医療を知る
教員として「もう一度教壇に立ちたい」という強い思いから、T・S様とご家族は、脳卒中(脳出血)の後遺症に対して、何か方法はないか、何か特別な治療法はないかと、インターネットで探し始められたそうです。
そのなかで、見つけられたのが当院の「脳卒中(脳出血)脳血管障害の後遺症」に対する回復、改善を目指せる再生医療でした。
「もう一度、自分の力で立ち上がれる可能性を探したい」
そんな思いから、詳しい説明を聞くため、当院のカウンセリングへご来院いただいたのです。

医師からのコメント
T・S様には、脳幹部の橋出血による脳卒中の後遺症として、両手足の麻痺がみられました。
コップやペンに手を伸ばしたときや、物を操作しようとしたときには手が震える「振戦」があり、目的の動作を最後まで行うことが難しい状態でした。
また、左足には強い感覚障害があり、自分の足がどこにあるのか、どの程度力が入っているのかを感じ取りにくいため、一人で立ち上がったり歩いたりすることはできませんでした。移動には介助用の車いすを使用し、ご家族などが後ろから操作する必要がありました。
言葉や食事にも脳卒中後の影響が残る
言語機能にも障害があり、舌を思うように動かしにくいため、言葉をはっきり発することが難しい状態でした。
さらに、食べ物や飲み物をうまく飲み込めない「嚥下障害」もみられました。飲食時には、口に入れたものをうまく飲み込めず、吐き出してしまうこともあったといいます。
家族の介助負担を減らし、教員としての復職を目指す
T・S様が強く希望されていたのは、ご家族の介助負担をできるだけ減らすことと、教員として再び職場へ復帰することでした。
そこで当院では、復職を最終目標に設定し、その前段階として、日常生活を一人で行える範囲を増やすことを目指しました。
具体的な課題として、次の2点が挙げられました。
- ・介助を受けずにトイレまで移動し、排泄動作を行うことができない
- ・ボールペンで文字を書く、電気工具を操作するなど、細かな手の動きが難しい
これらの課題を踏まえ、脳卒中後遺症に対する治療の新たな選択肢としての「自己脂肪由来幹細胞を用いた再生医療」をご提案しました。
あわせて、立ち上がりや移動、排泄動作、手指の操作、発話や嚥下など、T・S様の生活と復職に必要な機能を高めるためのリハビリを組み合わせ、段階的に目標へ近づく方針としました。
リハビリの内容
T・S様が、ご家族の介助負担を減らし、将来的な復職に近づくために、まず運動機能や日常動作の状態を詳しく評価しました。
その結果、次の3つをリハビリの主な目標として設定しました。
- 座った姿勢で両手を胸の高さまで上げ、左右の手を一緒に動かせるようになる
- 両手で身体を支えながら立ち上がれるようになる
- 右手で物をつかみ、目的の場所まで移動できるようになる
両手を使う動作の練習
将来的に文字を書く動作につなげるため、まずは両手を同じ方向へ動かす練習から始めました。
タオルやトレイを使いながら、左右の手にかける力のバランスや、同じ方向へ動かす感覚を繰り返し確認しました。両手を協調して動かすことで、書字や道具の操作に必要な基礎的な動作の獲得を目指しました。
両手で身体を支えて立ち上がる練習
立ち上がりの訓練では、前方から介助を行いながら、両手でテーブルを押して身体を支える練習を実施しました。
立ち上がる際に、身体の重心をどこへ移せばよいのかを確認し、前方へ体重を移しながらバランスよく身体を持ち上げる動作を練習しました。
右手で物をつかみ、動かす練習
T・S様には、物に手を伸ばした際や操作しようとした際に手が震える「振戦」がみられました。
そこで、手の震えをできるだけ抑えながら動かせるよう、力の入れ方や動かす速さを調整する訓練を行いました。あわせて、肩・肘・手首・指の関節をどのように連動させるかを確認しながら、物をつかんで移動させる動作を繰り返し練習しました。
これらのリハビリを、幹細胞投与を行う期間に合わせて、週5回、3か月間継続しました。

まとめ・「もう一度、教壇に立ちたい」脳幹出血の後遺症と向き合う50歳教員
T・S様は、当院の再生医療による3回の「幹細胞投与」と3か月間のリハビリに取り組まれました。
現在は、両手を使って車いすを操作できるようになり、右手でタイヤにかける力を調整しながら、ご自身で移動できるようになられています。
また、介助者が見守るなかではあるもの、自動車の後部座席にある手すりを右手でつかみ、一人で立ち上がることも可能になりました。
これまでご家族の介助が必要だった場面でも、ご自身の力でできる動作が少しずつ増えたことで、ご本人だけでなく、ご家族の介助負担にも変化がみられています。
T・S様も、「やりたい」と思った動作を自分で行えるようになったことを、大変喜ばれていました。
現在も残る課題と今後の目標
一方で、日常生活のなかでは、立ち上がろうとしてバランスを崩し、転倒することもあります。そのため、現在も安全に立ち上がりや移動ができるよう、バランス能力を高めるリハビリを継続しています。
次の目標は、トイレ内で右手を使って身体を支えながら、左手でズボンを上げ下げできるようになることです。
排泄動作や移動を周囲の介助に頼らず行えるようになれば、教員としての復職にも一歩近づきます。
治療開始から3か月が経過し、右手で手すりをつかんで立ち上がれるようになった現在、さらなる身体機能の向上を目指して、追加の幹細胞投与についても検討されています。
