症例紹介

CASE

脳出血の後遺症を乗り越えて復職|再生医療とリハビリに取り組んだ建築デザイナー

  • 疾患名:脳卒中(脳出血)脳血管疾患
  • イニシャル:H・O
  • 年齢:53歳
  • 性別:女性
  • 症状:脳血管障害の後遺症(左片麻痺)

 

来院までの経緯

H・O様は、当院へ来院される約7年前、53歳のときに脳出血を発症されました。

当時は、都内の建設会社で設計の仕事をされていました。

ある日、ご友人と外出していたところ、突然激しい頭痛に襲われました。同時に、床が波打つように見え始め、立っていることができなくなり、その場に倒れてしまったそうです。

ご友人が声をかけても反応がなかったため、すぐに救急車が呼ばれ、近隣の病院へ緊急搬送されました。

 

脳出血により左半身麻痺が残る

搬送先で検査を受けた結果、脳出血と診断されました。

脳出血の影響により左半身に麻痺が残り、当初は自分で身体を起こして座ることも難しい状態でした。また、血圧も安定していなかったため、急性期病棟に約1か月入院し、治療を受けました。

その後、自力で座った姿勢を保てるようになり、服薬によって血圧も管理できるようになったため、集中的なリハビリを行う回復期病棟へ転院されました。

 

6か月間のリハビリを経て自宅へ退院

回復期病棟では、約6か月にわたってリハビリに取り組みました。

その結果、「金属支柱付きの短下肢装具※」と杖を使用すれば、一人で歩ける状態まで回復し、ご自宅へ退院されました。

短下肢装具とは、麻痺した足を足裏からすねの部分まで支え、歩行を補助する装具です。金属支柱付きのタイプは、一般的なプラスチック製の装具に比べて、足首や下肢をより強く支えられる特徴があります。

 

※「金属支柱付きの短下肢装具」とは:麻痺している足の足底から下腿までを支持する構造を持ち、足首の麻痺や筋力低下を補って歩行を安定させる、金属製フレームを採用した耐久性・安定性の高い医療用装具です。強い矯正力で足の変形を防ぎます。

 

職場復帰後に感じた仕事と移動の難しさ

退院後、H・O様は職場へ復帰されます

しかし、脳出血を発症する前と同じように働くことは簡単ではありませんでした。

左半身に麻痺があるため、右手だけで設計図面を描かなければならず、以前より作業に時間がかかるようになりました。また、オフィス内をスムーズに移動することも難しく、「周囲の職員に迷惑をかけているのではないか」と不安を感じていたそうです。

通勤についても、ご家族などに職場まで送迎してもらう生活が続いていました。

H・O様は、「これ以上、周囲に負担をかけたくない」「いつかは一人で電車通勤ができるようになりたい」という思いを強く持つようになりました。

 

全国のリハビリ施設を探すも、希望する変化には届かず

左半身麻痺の状態を少しでも改善し、自力で通勤できるようになりたいと考えたH・O様は、全国のリハビリ施設について調べ始めました。

その後、見つけた自費のリハビリ施設にも通い、歩行には一定の変化を感じられたものの、電車通勤や職場内での移動といった、具体的な悩みの解決には到底至らなかったといわれます。

 

脳出血の後遺症に対する再生医療を知る

「今よりも歩けるようになるために、ほかに検討できる方法はないだろうか」

そのような思いで脳出血の後遺症について調べるなか、治療の新たな選択肢として「再生医療」が行われていることを知りました。

そこで脳出血後の左半身麻痺に対して、さらに身体機能の向上を目指せる可能性に期待を持ちつつ、詳しい説明を聞くため、当院のカウンセリングへご来院いただきました。

 

医師

医師からのコメント

H・O様は、すでに職場復帰をされていましたが、一人で電車通勤をすることは難しく、通勤には付き添いや送迎が必要な状態でした。

また、左腕の麻痺が強く残っていたため、設計図を描く際やパソコンを操作する際にも支障があり、発症前と比べて作業効率が低下していました。

 

H・O様が希望されていたのは、主に次の2点です。

  • ・一人で電車に乗り、職場まで通勤できるようになること
  • ・設計図を描く際に、左手を紙の上に置いて押さえられるようになること

 

そこで当院では、通勤や仕事に必要な後遺症の改善として身体機能の向上を目指し、「自己脂肪由来幹細胞を用いた再生医療」とリハビリを組み合わせた治療をご提案しました。

 

電車通勤や仕事で感じていた具体的な悩み

H・O様に詳しくお話を伺ったところ、外出時や仕事中には、次のような不安や困りごとがありました。

  • ・電車に乗る際、ホームと車両の間にある隙間をまたぐことが怖い
  • ・歩くときに足元ばかり見てしまい、駅構内で人にぶつからないか不安
  • ・左腕の動かし方が分からず、設計図の上に手を置いて紙を押さえられない

 

これらの課題を踏まえ、リハビリでは、電車への乗り降りに必要な歩行能力やバランス能力、周囲を見ながら歩くための姿勢や視線の使い方、左腕を目的に合わせて動かす練習に取り組む方針としました。

最終的には、一人で安全に電車通勤ができ、仕事中にも左手を使いながら設計作業を行える状態を目指しました。

 

リハビリ

リハビリの内容

H・O様は、自己脂肪由来幹細胞の投与を受けた翌日から、リハビリを開始しました。

開始初日は問診と身体機能の検査を行い、歩行や上肢の動き、日常生活で困っていることを詳しく確認しました。そのうえで、H・O様が希望されていた次の2つを、リハビリの大きな目標に設定しました。

 

  1.  一人で電車に乗り、自力で通勤できるようになる
  2.  設計図の上に左腕を置き、紙を押さえられるようになる

 

幹細胞治療とリハビリを行う3か月間で、これらの目標に段階的に近づけるよう、短期・中期・最終の3段階に分けて訓練を進めました。

 

第1段階:足元を見続けなくても歩ける状態を目指す

 

  • 短期的目標-達成機関1カ月
  • ➀自立して通勤することができる
  • ②図面に左腕をのせることができる

 

最初の1か月は、電車通勤と左腕の使用につながる基礎的な動作の獲得を目標にしました。

歩行では、足元を見続けなくても、足と床との位置関係や距離を感じ取れるようになることを目指しました。駅構内を安全に歩くためには、足元だけでなく、前方や周囲にも視線を向ける必要があるためです。

左腕については、肩関節・肩甲骨・肘がそれぞれどのように動くのかを確認し、腕を動かすための身体の使い方を一つずつ練習しました。

 

第2段階:左足の運び方と重心移動を練習

 

  • 長期目標-達成期間2カ月間
  • ①の目標:自立して通勤することができる
  • ②の目標:設計図に左腕をのせることができる

 

次の段階では、一人で電車へ乗るために、歩き方の改善に取り組みました。

H・O様には、麻痺側の左足を前へ出す際に、足を外側へ大きく回して運ぶ「分回し歩行※」がみられました。この歩き方では、電車に乗る際に左足が乗車口の縁へ当たる可能性があります。

そこで、左足をできるだけ真っすぐ前へ運び、ホームと車両の間を安全にまたげるよう、足の動かし方や体重移動を練習しました。

左腕については、腕を机の上へ置く際に、身体の重心を適切に移動させる訓練を行いました。腕だけを無理に動かすのではなく、体幹や肩の動きも使いながら、左手を設計図の上へ運べる状態を目指しました。

 

※「分回し歩行」とは:麻痺などによって足先を十分に持ち上げにくいため、足を外側へ弧を描くように回して前へ運ぶ歩き方です。

 

最終目標:一人での電車通勤と設計作業への参加

3か月間の最終目標は、次の2点です。

 

  • ① 一人で電車に乗車できるようになる
  • ② 設計図の上に左腕を乗せることができる

 

これらの目標を達成できるよう、リハビリセラピスト間で身体機能や訓練の進み具合を共有しながら、H・O様の状態に合わせてリハビリ内容を調整しました。

3か月間を通して、歩行、バランス、視線の使い方、左足の運び方、左腕の操作などを総合的に訓練しました。

 

まとめ・一人での電車通勤と復職を実現|脳出血・後遺症、建築デザイナーの症例

H・O様は、3回の幹細胞投与を受けながら、週3回・1回60分のリハビリを3か月間継続されました。

現在は、一人で電車に乗り、職場まで通勤できるようになっています。

仕事では、これまで難しかった「左手を図面の上に置いて紙を押さえる」という動作ができるようになりました。右手で図面を描く際に紙が動きにくくなったことで、以前より作業に集中しやすくなり、仕事の進めやすさにも変化がみられています。

また、通勤や職場内で周囲の方に負担をかけているのではないかという不安も、以前より軽くなったと話されています。

 

次の目標に向けてリハビリを継続

H・O様には、さらに次のような目標があります。

 

  • ・パソコンのキーボードを左手でも操作できるようになる
  • ・食事の際に、左手で茶碗を持てるようになる

 

これらの動作を目指して、今後もリハビリを続けたいというご希望がありました。

治療期間終了後は神奈川県のご自宅へ戻られるため、通いやすい提携先のリハビリ施設をご案内しました。これまでの身体機能の評価やリハビリ内容をまとめた資料もお渡しし、現在も新たな目標に向けて訓練を継続されています。

当院では、治療期間が終了した後も、患者様の生活や仕事に合わせた目標を大切にしながら、必要に応じて継続的な支援につなげています。

 

監修:医療法人香華会リボーンクリニック本院