脳梗塞・くも膜下出血後の右手麻痺から、再び家族と食事へ|再生医療とリハビリの症例
- 疾患名:脳卒中(脳梗塞・くも膜下出血)脳血管障害
- イニシャル:I.T
- 性別・年齢:57歳 女性
- 症状:脳梗塞 くも膜下出血 脳血管障害の後遺症:右手足の運動麻痺、感覚障害、高次脳機能障害
- 治療:脂肪由来幹細胞治療 × 3回
- リハビリ:週3回×3ヶ月
目次
来院までの経緯
I・T様が脳血管障害を発症されたのは、当院へ来院される約13年前のことでした。
その日は、いつもと変わらない朝でした。
仕事へ行く準備をするため、鏡を見ながらメイクをしていたところ、ふと軽い頭痛を感じたそうです。
「少し頭が痛いな」
そう思ったものの、頭痛は数分ほどで治まりました。安心したのもつかの間、今度は先ほどとは比べものにならないほど激しい頭痛に襲われました。
同時に、身体から力が抜けるような感覚があり、そのまま床へ倒れ込んでしまわれたのです。
突然の転倒、意識を失う
「ドンッ」という大きな音を聞かれたご主人が急いで様子を見に行くと・・・
そこには床に倒れているI・T様の姿がありました。
声をかけても返事はなく、身体を起こそうとしても反応がありません。異変を感じたご主人がすぐに救急車を要請、I・T様は病院へ緊急搬送されることになりました。
早い段階で発見され、医療機関へ搬送されたことで一命を取り留めましたが、検査の結果、「脳梗塞」と「くも膜下出血」を発症していることが分かりました。
命は助かったものの、脳卒中(脳血管障害)の後遺症として、右手足の運動麻痺や感覚障害、言語機能の障害などが残りました。
約半年間の入院とリハビリ
発症直後は全身状態が安定していなかったため、まず急性期病院に入院し、治療を受けました。
その後、身体機能の回復と自宅復帰を目指して回復期病院へ転院。急性期から回復期まで、約半年間にわたる入院生活とリハビリを経験されました。
継続的な訓練により、最終的にはご自宅へ戻り、身の回りのことをある程度ご自身で行える状態までには回復されました。
自宅へ戻ってから感じた、右手が使えない不自由さ
会話や基本的な日常生活はできるようになった一方で、右手足の動かしにくさや感覚障害は残ったままでした。
特に大きな負担となっていたのが、利き手である右手を使えないことです。
発症前は右手で箸や食器を使っていましたが、退院後は左手でスプーンを持ち、食事をしなければなりませんでした。
慣れない左手で食べ物をこぼさないようにすることに精いっぱいで、以前のようにご家族と会話を楽しみながら食事をするといった余裕は一切なくなったということです。
食事の時間は本来、ご家族と一緒に過ごす楽しい時間でした。そんな楽しかった時間がI・T様にとっては、右手が使えないことを強く意識する辛い時間へと変わってしまいわれたのです。
もう一度、家族と笑顔で食卓を囲みたい
I・T様が強く願っていたのは、もう一度、利き手で食事をすることでした。
- 「右手を使って食事ができるようになりたい」
- 「以前のように、家族と会話を楽しみながら食卓を囲みたい」
その強い思いから、「脳梗塞」や「くも膜下出血」といった脳卒中による後遺症に対して、一般的な治療以外、ほかにできる治療法はないものかと調べ始めたと言われます。
情報を探すなかで、脳卒中(脳血管障害)の後遺症に対する新たな選択肢として「再生医療」が行われていることを知りました。
再生医療とあわせて、同時にリハビリにも取り組める医療機関を探し当院へ行きつかれ、詳しい説明を聞くため、当院のカウンセリングへご来院いただきました。

医師からのコメント
I・T様のご希望は、「以前のように右手を使い、家族と会話を楽しみながら食事をしたい」ということでした。
そこで当院では、右手で食事の道具を持ち、自分で口元まで運べるようになることを、治療とリハビリの最終目標に設定しました。
初診時には、右手を口元まで近づけることはできていました。しかし、動かそうとすると指が意図せず曲がってしまい、スプーンや箸などの道具を安定して持つことは難しい状態でした。
右手で食事をするためには、道具を握るだけでなく、握る力を調整しながら、手を口元まで安定して運ぶ必要があります。
右手で食事をする際に残っていた課題
I・T様に実際の動作を確認したところ、主に次の2つの課題がありました。
- ・スプーンなどの道具を持ったまま、右手を口元まで運ぶことが難しい
- ・手を口元へ近づけようとすると、腕や身体に必要以上の力が入り、上半身が後ろへ反ってしまう
これらの状態から、指先だけでなく、手首、肘、肩、体幹を連動させて動かす練習が必要だと判断しました。
そこで、脳血管障害の後遺症に対する治療選択肢の一つとして、自己脂肪由来幹細胞を用いた再生医療をご提案しました。
あわせて、指先の力加減や道具を握る動作、右手を口元まで運ぶ動き、身体に余分な力を入れずに姿勢を保つためのリハビリを組み合わせ、段階的に食事動作の獲得を目指す方針としました。

リハビリの内容
I・T様が右手で食事できるようになるために、まず現在の運動機能や食事動作を詳しく評価しました。
評価の結果、主に次の2つの課題に取り組む必要があると判断しました。
- 腕全体に力を入れるのではなく、肩や肘に必要な筋肉を選んで使えるようになる
- 身体を後ろへ反らす動きに頼らず、右腕を口元まで持ち上げられるようになる
肩や肘の筋肉を使い分ける練習
I・T様は、右腕を動かそうとすると腕全体に強く力が入りやすく、肩や肘をそれぞれ適切に動かすことが難しい状態でした。
そこで、まずは身体を安定させた姿勢で、肩や肘の筋肉に力が入る感覚を確認する練習を行いました。
必要な筋肉だけを使い、余分な力をできるだけ抑えながら腕を動かすことで、スプーンなどの道具を安定して口元へ運ぶ動作につなげていきました。
身体を反らさずに腕を上げる練習
右腕を口元へ近づけようとすると、上半身が後ろへ反ってしまうことも課題でした。
そこで、座った姿勢で少し前かがみになり、麻痺していない左手で身体を支えながら、右腕を持ち上げる練習を実施しました。
体幹を安定させた状態で右腕を動かすことで、身体全体の勢いに頼らず、肩や肘を使って腕を持ち上げられる状態を目指しました。
これらの訓練を繰り返しながら、右手で道具を持ち、安定した姿勢で口元まで運ぶ食事動作の獲得を目指しました。

治療後の経過
I・T様は、3回の幹細胞投与を終え、約3か月間リハビリに取り組まれました。
現在は、右手だけでスプーンを握ることはまだ難しいものの、固定具を使ってスプーンを手に装着することで、右手を使って食事ができるようになっています。
右手の動きを細かく調整することには、まだ課題が残っています。そのため、食べ物をこぼさないように注意しながら、ゆっくりと口元まで運んでいます。
それでも、以前は左手で食べることに精いっぱいだった食事の時間が、今では右手を動かすためのリハビリとなり、同時に一日の楽しみにもなっているそうです。
再び、家族と笑顔で囲む食卓へ
右手を使って食事をするI・T様の姿を、ご家族も温かく見守っています。
食べ物を口元まで運ぶ動作にはまだ時間がかかりますが、以前のようにご家族と一緒に食卓を囲み、会話を楽しみながら食事をする時間が少しずつ戻ってきました。
当初の目標だった「右手を使って家族と楽しく食事をすること」に、一歩ずつ近づかれています。
次の目標は、固定具を使わずにスプーンを持つこと
現在は、スプーンを手に固定するための補助具を外し、ご自身の指でスプーンを持って食事ができる状態を目指して、リハビリを継続されています。
I・T様は、発症から長い年月が経過していますが、治療とリハビリを続けるなかで、日常動作に変化を感じておられます。
当院では、I・T様が右手をより自由に使い、ご家族との食事をさらに楽しめるよう、今後も身体の状態と目標に合わせて支援してまいります。